【初演】昭和22年頃
■作詞:長田幹彦   ■作曲:岸上きみ

(二上り)

春悩ましき花影に 憩うすべなき想いどり

恨みは永し黒髪の あやめもわかぬ 迷いの道

涙しとどに行く果ての 鐘の供養に参らん

花かあらぬか 夕星(ゆうづつ)の 霞の底と聞くよりも

仰ぐ御山(みやま)は ただ一と色に 匂う朧の花の雲

あれあれ 散りくる 雪のうつつなや

雪にはあらで 花吹雪

(本調子)

昇るとすれど 石段の 数えて尽きぬ 百八煩悩

思いに焼かれて 死なんず我が身

地獄の業火(ごうか) めらめらめら

いま目前に阿修羅の叫び 五欲の辻に 蛇体の業苦(ごうく)

噫々(ああ) 仏の功力(くりき) おそろしや

此の黒髪の 乱れ乱れて入相の

思えばあの鐘 うらめしや

心も空に 妄執の 又鳴り響く 鐘の音

にくや此の花 この花吹雪 

身を打ち伏して 泣き沈む

【解説】

長唄の「京鹿子娘道成寺」の大和楽版で、能の「娘道成寺」から作られた昭和二十二年頃の作品。

安珍を追って道成寺にたどり着いた清姫が、嫉妬の念で蛇となり鐘を攻めるが、やがて泣き沈む様子が描かれている。

「地獄の業火めらめらめら」「思えばあの鐘うらめしや」「にくや此の花」など女の執念を表わしたところも聞きどころの一つで、観賞曲としても価値の高い作品となっています。