田植

【初演】昭和12年
■作詞:大倉聴松   ■作曲:大倉聴松

(本調子)(二上り)(三下り)(六下り)(一下り)(下調子)

良き日和 庄屋の娘もうちまじり 茜(あかね)襷(だすき)に菅の笠 

拍子そろえて唄面白く 植え始む

 

水ぬるむ 五月の空も晴れ渡り 小田の手弱女(たおやめ)手に早苗 

拍子そろえて 唄面白く 植え渡す

 

菅笠に 夕日は沈み清清(すがすが)と いつか早苗に宿る露 

拍子揃えて 唄面白く 田草取る

 

秋風が身にしむ朝は童たち 蜻蛉(とんぼ)取りやら蝗(いなご)取り 

拍子そろえて 唄面白く 野道行く

 

いそしみの力に実る秋の田を 黄金浪うつ長月に

拍子揃えて 唄面白く 刈りわたす

 

よき日和庄屋の娘もうちまじり 茜欅に菅の傘

拍子揃えて 唄面白く 植え始む

 

微風(そよかぜ)が 早苗の緑 撫でてゆく 後を小雨のひと湿(しめ)り

拍子揃えて 唄面白く 植えおさむ

【解説】

この曲の作詞・作曲は、大和楽の創始者大倉喜七郎こと大倉聴松によるもので、昭和12年の2月の作品である。

翌年13年に東京会館で大和楽初めての演奏会で発表されたものである。

唄の構成としては本来6番まであり、唄のメロディーは各コーラスとも同じであるが、三味線の調子が本調子・二上り・三下り・六下り・一下り・下調子、という具合に、本調子の本手に第二変調子を加え、六重奏にしてある。

本調子の本手を助ける替手の変化がよくマッチし、更に唄の味が引き立つ曲という事で、貴重でありまた趣き深いものである。

曲の内容は、春、茜欅に菅の笠をかぶった娘達が唄を歌いながら早苗を植え始め、梅雨時期が過ぎ田草取りをし、やがて頬に秋風が伝う頃、辺り一面黄金色に育った稲を刈るまでの田舎の風景を唄ったものである。

この曲のもつ、気取らない、又覚えやすいメロディーは、のどかな田園風景を彷彿とさせる。