四季のもの売り
【初演】平成10年
■作詞:小川清子 ■作曲:大和久満
(三下り)
江戸の四季 春は霞の彼方から 在所訛りも愛嬌に
えぇ 苗はいらんか いらんかいの さってもな
丹波ほおずき 茄子 隠元 千成瓢箪 胡瓜に南瓜
彩(いろ)も よいよい 朝顔は 赤い絞りに濃紫
露の干ぬ間の 苗売り娘 笠の紅紐 可愛ゆらし
粋(すい)な出立ちの蚊帳売りが
さあさ 本場の麻蚊帳(あさがや) 見さいのう
さらり手触り染めのよさ 深い萌黄は夏の色
水色ぼかし すがすがと 幻に 歌まろ涼し 蚊帳の夢
忘れねばこそ 思いも出さず 焦がれ焦がれて 身をつくし
心を濡らす秋しぐれ 主のお出でを神かけて
お待ち参らせ そろかしく 嘘と誠の仲の町
文を売るのも世の生活(たつき) 廓(さと)吹く風の 艶めかし
来る初春に さきがけて この大江戸の八百八町
お邪魔しまする 目出度い舞の翁の面 犬猿雉や桃太郎
お子さま方の遊びの面 花見の宴や 冬の徒然に
おかめひょっとこ 天狗の面
辻に呼ばわる商いの 担ぐ荷物や 面のかずかず
【解説】
昭和六十二年に作曲されたこの作品は、約十二年間未発表でしたが、平成十年にリリースされた「新大和楽全集」にて発表されました。
江戸の四季折々の「もの売り」を詠んでおり、春は茄子やいんげん、朝顔などの「苗」を売り歩く可愛らしい娘。 夏は、すがすがしさを呼ぶ「蚊帳」売り。 秋は、しっとり廓の「文」売り。 冬は、初春の目出度い舞の翁の「面」売り。 江戸の情緒を「もの売り」で描いた作品です。