明石町

【初演】昭和62年
■作詞:小川清子   ■作曲:大和久満

(六下り)

ほんのりと紫にじむ彼(か)は誰(たれ)に 匂う襟足明石町

粋(いき)な島田のつぶし髷(まげ) 滑る羽織の黒縮緬(くろちりめん)に

染めて嬉しい比翼(ひよく)紋(もん) あれ 浮き立って見ゆるぞな

様とな 様と逢(お)う夜の約束を 思い返せば嬉しさに

鏡の前の化粧(けわい)さへ 心ときめく 恋の謎

どうした縁でかの人に 逢うた初手(しょて)から可愛さが

三味(さみ)の音(ね)近く新内の 流しの声も 身に沁みて

思い廻せば 去年(こぞ)の春

初めて逢うたお座敷で そめて見染めて恥ずかしい

そさま想へば気もそぞろ 塒(ねぐら)へ急ぐ鳥でさへ

番(つが)い離れぬ夫婦(みょうと)連(づ)れ 羨ましさの涙ぐせ

逢われぬ時は幻(まぼろし)に こなさん一人 男じゃと

心に定(き)めて抱(いだ)きしめ

空にかかった眉月(まゆづき)は 探せど消えて 淡雪(あわゆき)の

闇に沈んでゆく 夕べ

 

【解説】

小川清子・作詞 大和久満・作曲によるこの作品は、昭和62年に花柳流の制定舞踊曲として作曲されました。

夕暮れの明石町の海岸に佇むひとりの女。

夢そぞろな花街に咲いた女心と、その面影を巧みに描写しております。

日本画家の鏑木清方の「築地明石町」が否(いな)王(おう)なく思い起こされる、まさに「音楽の風俗画」ともいえる作品である。