花吹雪

【初演】昭和46年
■作詞:田中青滋   ■作曲:大和久満

(二上り)

花吹雪 春はそぞろに 夢心

一度ま見えし お若衆の 花に浮かびし 面影が

つい そのままに 忘れかね 今日も稽古の 行きもどり

古今万葉 恋の唄 誰(た)が手ほどきの 草仮名(そうがな)は

色は匂えど 散りぬるを 我が世 たれそ つねならむ

ういぞ つらいは 常のこと

(三下り)

書いて消し 消してはなぞる 女々しい心になったもの

伽羅の香りと あの君様は 幾夜止めても わしゃ とめあかぬ 

寝てもさめても 忘られぬ

藤紫の長羽織 紋は比翼の抱き柏(だきがしわ) ひそかに肩にかけて見る

この袖に あの君様の 手が通る

冷たい絹の 肌ざわり ほてった頬に 心地よや

お茶をたてれば こんもりと 盛り上がりくる 薄緑(うすみどり)

上げましょう いただきましょう

互いにそれと矩り(のり)越えぬ これが囲いの 松の風

ほんに こうも有ろかいな

花は咲き 花は散る 来る日を胸に抱き(いだき)秘め

今日も稽古の 花吹雪

【解説】

作詞・田中青滋、作曲・大和久満によるこの作品は、昭和46年4月国立劇場にて、企画構成・載間庸吉により大和楽定期公演が行われた際、唄11名、三味線9名、筝8名で演奏されました。

上村松園の絵の一つに、文金高島田の大店の娘が花吹雪の中に立っている絵がありますが、その絵をテーマに大和楽の「手習子」ともいうべき作品になっている。

前半は、桜の花が吹雪のように散る春の日、お稽古の行き戻りに、一度会った人を思い出す場面。

三下りからは、あきらめきれない女々しい心となった自分と、想いをよせる人が羽織の袖に手を通した時を察する娘の気持ちが表わされ、踊り地になります。

やがて、花吹雪の散る中、想い人が来る日を待ちながら、チラシとなり、今日も稽古の道を行く。といった内容の作品であります。