月慈童
【初演】昭和44年
■作詞:駒井義之 ■作曲:大和久満
(本調子)
竹林に 月は爽(さ)やけく 忍び寄る 一人住もうや 月慈童
月の都は 遙けきも 宮居(みやい)尊き 銀(しろがね)の
枕を踏みし 罪科(つみとが)に
月宮殿を 追われていづこ 星屑波の 空の果て
流るる光 送る星 露を褥(しとね)の かり枕
四季おりおりの 竹の里 直ぐなる真竹(まだけ)なよ竹の
緑の小笹(おざさ) 風さわぐ
咲く花持たず 散るを知らぬは 竹の花
十年百年(ととせももとせ) 廻り(めぐり)逢う
結ぶ縁(えにし)に 咲くとても 生命(いのち)儚き
花白妙の 愛(いと)けらし
なよやなよなよ なよやなよなよ 葉風にそよぐ 竹の春
小花は白く 降る降る 降る降る 細雪 なよやなよや
山より山の 深山奥 問えど答うる 人も無し
円かな月の 冴え冴えに 蒼き円光 姿にうつし 長き影
短き影に 問えば 答えの 虚しさは
笑えば笑う ゆるる影 泣けば涙の 影法師 月は恋しき 空あなた
(六下り)
こめし心の 眼差し高き 月慈童 中天(ちゅうてん)のぞみ 立ちつくす
流るる雲に 月映ゆる 光芒(こうぼう)長く 流麗と
皎々(こうこう)たりや 光の潮 燦々(さんさん)たりや 星の波
満月船(ぶね)は 喜びを 銀の河面は 悲しみを
尽きぬ輪廻の 天の空 謡いて舞うや 月下の舞
夜霧の流れ 竹の笹鳴り 峯の風
空に伝えよ 我が想い 月閑か(しずか) 竹閑か(しずか)
ひそと静まる 竹の里 唯(ただ)一人のみ 月慈童
【解説】
能楽に『枕慈童』という曲(観世流では『菊慈童』)がある。それは、中国の昔、周の穆王の傍に仕えていた慈童という少年が、王の枕の上を越えて罰せられ、遠隔の地に流された。少年はその山中で菊の葉におく露を飲み、不老不死となって七百歳を生きた。という話だが、その物語を基底に作られたのがこの『月慈童』である。
この駒井義之作詞の「月慈童」では、月の都を罪により追われた少年が、月を想い、恋して舞うという作品となっている。初演は昭和四十四年五月十八日、大阪毎日ホールの花柳和泉の和泉会である。
月宮殿を追われて、地上の竹林の中にひとり住む慈童少年が、月の光が皎々(こうこう)とする中、笹竹を持って踊る姿は幻想的であり、その舞に呼応する大和楽の調べでは、幽雅でありまた艶麗である。
この作品が縁となり、大和久満が立三味線及び作曲家として大和楽に入った。