団十郎娘
【初演】昭和25年
■作詞:邦枝完二 ■作曲:宮川寿朗
〽仇ごころ 花にそむいて市川の 流れを渡る白鷺の
声もいみじき昨日今日 歌舞伎の夢のさめやらぬ
娘島田の結心地
〽私しゃ ちょいと見て一寸(ちょっと)惚れた 助六さんの鉢巻きに
したたる露の濃むらさき 昨日見たゆめ 今日のゆめ
〽富士と筑波の花川戸
〽瓦焼く今戸の煙も蜃気楼
あれに見えるは待乳山 帆上げた舟にあらねども
登りつめたる娘気か ンても ン恥ずかしい助六さん
「おっとお待ちゃれ」
〽お待ちゃれ お嬢さん 旦那の御用は急御用
「助六さん その鉢巻きはえ」
〽この鉢巻きは 過ぎし頃
ゆかりの筋の紫の 初元結いを巻きそめし
〽待ちゃれ お待ちゃれ 鼻緒が切れる
晦日に月の出る里に 生きた花見る長刀
近衛牡丹の紋所 ぱっと咲いたが何故悪い
日本一の成田屋に ほれた私が なぜ悪い
「成田屋…」
【解説】
作詞は邦枝完二、作曲は宮川寿朗によるもので、舞踊家の西川鯉寿のご祝儀曲として昭和25年の5月に作られたものである。
歌舞伎役者の市川團十郎をひいきにしている大店のお嬢さんを、大店の旦那の言いつけで丁稚が迎えに行ったのだが、なかなか帰らないの丁稚が團十郎の当たり芸の「助六」にみたててお嬢さんを呼び寄せる。お嬢さんはそれに夢中になり、家の方に帰って行くが、あべこべに丁稚がその場にとり残された格好になり、今度は丁稚が慌ててお嬢さんを追いかけ店に帰って行く。といった芝居もどきの粋で洒落た曲である。
唄の聞きどころとしては、〽瓦焼く~ のクドキ風のところもあるが、「助六さん、その鉢巻はえ」のセリフのあとの〽この鉢巻の~まきそめし までの河東節がかりの部分と、〽待ちゃれ お待ちゃれ~ からの踊地へ移る変化が、この曲の楽しいところでもある。結びの「日本一の成田屋に、惚れた私がなぜ悪い」という娘の気持ちで詞を締めくくった所が、なんとも洒落た演出になっている。
大和楽のきわめ付けといって良いほどの作品で、舞踊曲としても大変人気のある作品である。