衹園の夜桜
【初演】昭和22年頃
■作詞:長田幹彦 ■作曲:岸上きみ
〽圓山(まるやま)の 春の篝(かがり)に ほのめくは
枝垂れ桜よ 老樹(おいき)の花よ 月もいざよう 花の夢
〽紅い口紅 だらりの帯に 花の簪(かんざし) 振り袖に
もゆる想いの あの緋鹿の子に
誘う夜風が ちらほらと ちらりほらりと 月影に
花が散るぞえ 花が散る
〽仇な情けに 消えてはもえる
つなぎ団子の紅提灯が
霞がくれに 燃えては消える いとし祇園の恋模様
〽おぼろおぼろの 月よ月 霞むおぼろの紅ざくら
白い襟足 まいまいて 落とす扇のもの思い
〽あれ鐘が鳴る華頂山 寂滅為楽の鐘がなる
【解説】
昭和二十二年頃の作品。舞踊家の初代西川緑氏のために作られたものであったが、踊られずに時が過ぎ、大阪の大和屋の二代目おはんと言われた舞踊の上手な芸妓さんが昭和二十六年頃に踊り始めたと言われている。
だらりの帯に振袖を着た祇園の舞妓が、春の篝にほのめく円山のしだれ桜に囲まれて、恋の心を抑えきれずに踊るさまは、祇園情緒をいやが上にもかもしだし、祇園囃子が遠く聞こえ、おぼろ月夜と朧にかすむ紅ざくら、白い襟足、の色彩感、華頂山の寺から聞こえる鐘の音。といった情景がよく表わされている