雪折竹
【初演】昭和14年
■作詞:笹川臨風 ■作曲:宮川寿朗
(本調子)
ひるがえす雪の袂(たもと) 大空に さす手 引く手の舞衣
飛ぶは楊(やなぎ)の花か しろがねの砂(いさご)は散って
宮も藁屋も 唯(ただ)一と色
古木(こぼく)花開いて 起伏(おきふし)しげき呉竹の
窓のとぼそに 日は暮れて 里も巷(ちまた)も しめやかに
ねぐらを急ぐ 三つ四つ五つの 寒鴉(かんがらす)
灯影(ほかげ)漏る家(もるや)の内より 音(ね)じめ ゆるかに
(三下り)
聞こゆる一曲
うそのかたまり まことの情(なさけ) この真中(まんなか)にかきくれて
ふる白雪の人心(ひとごころ)人心 つもる思いと つめたいと
わきて言われぬ 世の中
浮世のけじめ 人の心の わけへだて
嘘かまことか 虚か実か 問えど答へず
風冷ややかに 雪折竹の声ばかり
更け行く夜半(よわ)に 積もる白雪
【解説】
作詞は笹川臨風氏、作曲は宮川寿朗(大和栄棋)氏による作品である。
この作品は、昭和十四年九月二十七日より三日間、茂登女会十周年記念の新作として、藤間新流家元・藤間勘素娥の舞踊のために作られたものである。ビロードの布に竹をあしらった、だらり帯に半すのかつらで踊られ、観客をうならせたものである。 その時の演奏は、近衛秀磨氏の指揮で日本フィルハーモニー交響楽団の前身のオーケストラと、大和楽の共演で歌舞伎座で行われた。
『雪折竹』は笹川臨風が大和楽のために「雪・月・花」として書いた「雪折竹・月見草・花むしろ」の三部作の一つである。
「うそのかたまり~嘘か実か」は、《わきて節》で元禄年間に流行した歌謡の一種である。元禄十六年版の「松の葉」に、わきて節の歌が五曲出てくるが、その節をとったものに長唄の「京鹿子娘道成寺」がある。
この「雪折竹」では、原歌に依り古謡を利用して作られたものを、宮川氏が大和楽調にしたものである。 素唄としても格調のある曲で冒頭からの雪景色のスケールの大きさと、後半の雪の静寂さとがよくマッチしており、手事風の合方は「昭和の地唄」と評されたものである。